「爪から元気を!!」 シニア向けネイルペン“アキュレ”開発者 ラヴィ―ナ株式会社 代表 堀口カストゥリさんに聞きました
番号 59

介護業界で研究が進む“メイクセラピー”
先日、あるイベントでシニア向け『ネイルペン アキュレ』を開発した、ラヴィ―ナ株式会社代表・堀口カストゥリさんにお話しを伺う機会がありました。
開発されたネイルペンはペン型の水性のマニキュアです。
主成分が水のため、爪に優しく、すぐにはがすことも可能です。どなたでも簡単におしゃれを楽しめる、今大注目のアイテムです。
カストゥリさんも介護施設からリクエストがあり、利用者の方々がご自身でネイルペンを使って楽しむ「ネイル教室」形式の美容レクリエーションを実施しています。
近年“メイクセラピー”は、単なる美容技術を超えた、心理的・感情的回復を目指す革新的なアプローチとして注目をされており、美容を通じて個人の自尊心、自信、および心理的回復を促進することを目的として多くの介護施設からお問合せの声が寄せられています。
カストゥリさんがネイルペンの開発に至った経緯や介護現場におけるメイクセラピーの反応について聞いてみました。
ネイルペン開発のきっかけは何だったのでしょうか?
ネイルペンを開発するきっかけは、祖母の存在でした。
認知症を患った祖母に、私がネイルを塗ってあげたところ、それまであまり表情を見せなかった祖母が久しぶりに笑顔になり、「ありがとう」と言ってくれたんです。
そのときの嬉しそうな様子がとても印象的で、施設の方から「爪を褒めてもらったよ」と嬉しそうに報告してくれたこともありました。
ネイルを継続したことがきっかけで少しずつ元気を取り戻し、私の名前も思い出してくれました。
この体験を通じて、美容が心に与える力を実感し、「介護×美容」の可能性に強く惹かれるようになりました。
現場の方から「マニキュアで喜ぶことは知っているが、普通のマニキュアは塗るのが難しいしニオイもあるし、落とすのもめんどくさいからできない」という意見が多く、私自身も祖母に使う上でいろいろな製品を試したのですが、いいものに巡り会えず、それであれば自分で介護現場でも使いやすいマニキュアをつくることができたら、より多くの高齢者へネイルによって笑顔をお届けできるのではと思い、製品開発に挑みました。
カストゥリさんのキャリアのバックグランドを教えて下さい
私は元々、化粧品メーカーに勤めており、ネイルの資格も取得していました。
祖母との経験を経て、介護現場でも安心して使えるような、安全でやさしい化粧品の必要性を感じるようになりました。
しかし当時、市場には高齢者に特化したネイル商品がなく、「ないなら自分で作ろう」と思ったのが、起業のきっかけです。
現場での声やニーズを丁寧に拾い上げながら開発を進め、ようやく生まれたのが現在の「水性ネイルペン」です。
ネイルペンの特徴を教えて下さい
ネイルペンには、以下のような特長があります
・速乾性:すぐに乾くので作業がスムーズです。
・無臭:においが全くないので、他の利用者の方の迷惑になりません。
・除光液不要:ペリッとシールのように剥がせるので、落とす専用の溶剤が不要で、落とす必要がある場面でもすぐに対応可能です。
・ペン型で使いやすい:ご自身でも握りやすく、塗りやすい設計のため、リハビリや脳のトレーニングにもつながります。
また、高齢者の方にも安心して使っていただけるよう、使いやすさと安全性を重視しました。
『美容レクレーション』はどのような場面でご紹介されますか?また、実施した方の反応はいかがですか?
主に介護施設やデイサービスなどの福祉現場で導入いただいています。
施設様向けにオリエンテーションやワークショップも行っており、「ネイルの日」としてイベントを開催してくださる施設も増えてきました。
最近では学生さんの実習先や地域イベントでも紹介する機会が増え、幅広い世代の方に触れていただいています。
ある施設では「ネイルの日」を心待ちにして、普段よりもおしゃれをして参加される利用者さんもいらっしゃいます。
「今日はネイルの日だから頑張って来たのよ」とお話くださる方や、パートナーや先生に見せたいと嬉しそうに話す姿を見ると、こちらまで元気をもらえます。
「98歳で初めてネイルをした」「やってみたらとても良かった、あなたが来なかったら一生やらなかった」など、毎回心温まる声をいただきます。
ネイルペンのおすすめの使い方と今後の目標をお聞かせ下さい。
ネイルが特別なものではなく、誰にとっても気軽に楽しめる日常のひとつになってほしいと思っています。
施設に必ず置いてある備品の塗り絵の色鉛筆のように、施設に1本ネイルペンが常備されていて、誰でもネイルをしたいときに自由に楽しめる、そんな風景が当たり前になる未来を目指しています。「高齢だから」「手がしわしわだから」とおしゃれをすることを諦めるのではなく、いくつになっても自分らしさを表現できるツールとして使っていただきたいです。
また、目標としてはネイルペンを通じて、「介護美容」の文化をもっと広げていきたいです。
美容が心に与える力は本当に大きく、QOL(生活の質)の向上にもつながると信じています。行動意欲や前向きな気持ちになるためには、女性にとって美容は必須です。
将来的には、全国の介護施設にネイルペンが当たり前に導入され、誰もが自然に「今日ちょっとネイルしてみようかな」と手に取れる、そんな世の中を目指しています。
🔳指先から心晴れやかに:NAILPEN AQURE(ネイルペン アキュレ)
・ホームページ
https://raveena.jp/
・販売サイト
https://raveena.official.ec/
・ネイルペンの紹介
https://youtu.be/MPtIcsA605A?si=Ip-qcAoslRne-JIi
・ネイルペンの開発秘話やエピソード等
https://youtu.be/bUjogh80jAE?si=pEJ91t_a3fR3fc5m
近年の“メイクセラピー”導入の高まり
高齢者に限らず、現代社会において、メイクセラピーの重要性はますます高まっています。
ストレス、自信の喪失、外見に関する不安など、多くの心理的課題に対して、メイクは非言語的なコミュニケーション手段および自己回復の手段として機能しているといえます。
特に認知症ケアの分野では、認知機能低下による自己アイデンティティの喪失感や、社会から孤立が最も深刻な問題とされており、これらを克服するのにメイクセラピーは最適な手段であると注目され、研究がいくつも行われています。
その中の事例の一つとして、東京都内の高齢者介護施設で実施された包括的研究では、12週間にわたるメイクセラピーの介入効果が詳細に調査され、対象は軽度から中度の認知症患者数十名で、以下のような顕著な結果が得られているとの報告があります。
◾️認知機能への影響 ミニメンタルステート検査(MMSE)による認知機能評価では、メイクセラピー群は通常のケア群と比較して、認知機能の低下速度が有意に遅延したそうです。
・メイクセラピー群:年間平均1.2点の低下
・通常ケア群:年間平均2.7点の低下
◾️心理的指標の変化
・うつ症状スケール(GDS):介入前と比較して平均23.4%低下
・自尊心評価(Rosenberg Self-Esteem Scale):平均得点が15.6%上昇
・社会的相互作用の頻度:週平均2.7回から6.3回に増加
◾️QOL評価 高齢者向け生活の質評価尺度(WHOQOL-BREF)による分析
・心理的健康:42.3%改善
・社会的関係:36.7%改善
・自己認識:48.5%改善
さらに家族や介護者との関係性においても革新的な変化をもたらす可能性を秘めています。
従来の介護関係は、どうしても医療的ケアや日常的支援に偏りがちでしたが、メイクセラピーは感情的なつながりと相互理解を深める新たな対話の機会を提供しています。
具体的には、メイクセラピーは以下のような形で家族や介護者との関係性を改善すると考えます:
◾️コミュニケーションの再構築
メイクセラピーのセッションは、患者と家族の間に新たな対話の糸口を生み出します。
化粧品の選択や思い出の共有を通じて、内面的な世界に家族がアクセスできるようになります。
例えば、「この口紅は昔よく使っていたのよ」といった会話は、単なる会話を超えて深い感情的つながりを再生すると考えられます。
◾️家族の認識変化
多くの家族は、認知症患者を「できないこと」に焦点を当てがちです。
しかし、メイクセラピーは患者の残存能力と創造性を可視化します。
家族は、患者の選択や表現を通じて、新たな側面を発見し、より肯定的で尊重に満ちた関係を構築できるのです。
◾️介護の質的変化
介護を単なる身体的ケアから、感情的サポートへと昇華させます。
介護者は技術的なケアだけでなく、患者の感情的ニーズに寄り添うことの重要性を学びます。この過程で、より深い共感と理解に基づく関係性が育まれます。
◾️感情的回復力の強化
メイクセラピーのセッションによってもたらされる参加者の笑顔や自信の回復は、介護における精神的負担を軽減し、関係性全体に前向きなエネルギーを与えると考えます。
このように、メイクセラピーは単なる美容行為を超えて、認知症患者と家族、介護者との間に新たな対話と理解の橋を架ける、革新的な関係性再構築のアプローチであるといえます。
ネイルペンのように手軽に簡単におしゃれができるアイテムは、介護施設だけでなく、様々な場面でも話題になりやすいアイテムだと思いますので、人と会う機会が多い人は是非話しのきっかけとして試してみてはいかがでしょうか?