ユニマチュードが拓く“離職しない職場づくり”──認知症ケアの標準化で現場改革を実現する方法

番号 86

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介護現場の危機を映し出すニュースが示す“認知症ケアの限界点”

先日、全国紙の医療・介護特集で「介護現場の離職率が再上昇し、10年ぶりの水準に近づいている」というニュースを見ました。

記事では、離職理由に関する調査結果として「給与・待遇」に次いで、「認知症ケアの精神的負担」「職場のケア観の不統一」「BPSD に伴うトラブル対応の増加」が挙げられていました。

特に印象的だったのは、介護職員の声として紹介されていた「身体介護よりも“うまく関われないこと”が一番つらい」というコメントです。

記事ではまた、厚生労働省の研究班が行った調査として、認知症の利用者が多い施設ほど、職員の疲弊度(ストレス指標)・業務過多感・離職意向が高い相関傾向にあることが示されていました。

現場からは、
「説明しても理解されない」
「急な拒否や興奮への対応が続く」
「新人はすぐに消耗してしまう」
といった声が寄せられており、これらが“日常の当たり前”として起きている現状が浮き彫りになっています。

こうした課題は、事業者にとって無視できない経営問題でもあります。
認知症ケアの非効率がそのまま人件費の増大、教育コストの増加、稼働率の安定化の難しさといった構造的な負担につながるためです。

人材難が続くなか、採用強化だけに頼る運営はもはや限界に近づいているのは明白です。

その文脈で、全国の医療機関・介護施設で導入が広がっているのが、フランス発の認知症ケア技法**ユニマチュード(ユマニチュード)**です。

近年の研究報告では、ユニマチュード導入によって BPSDが減少し、身体抑制率が低下し、ケア時間が短縮し、職員ストレスが改善したというデータが次々と示されています。

現場の課題が深刻化する今、ユニマチュードは単なる技法ではなく、事業所経営と現場の持続可能性を支える“組織戦略”として注目されています。

ユニマチュードとは何か──「見る・話す・触れる・立つ」の科学的技法が現場を変える

ユニマチュードは、フランスのイブ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏が開発した、認知症ケアに特化したコミュニケーション技法です。

特徴は、
① 知覚・感情に働きかける科学的アプローチ
② 手順として再現できる“技法”であること
③ 認知症の人の安心感を中心に設計されていること

にあります。

ユニマチュードは、次の4つの柱を組み合わせてケアを構築します。


 

■「見る」──アイコンタクトの角度・距離・持続

 

ユニマチュードでは、利用者の視界に入る“接近角度”を細かく調整します。

正面から急に近づくのではなく、視界の端にゆっくり入り、利用者が「相手が来た」と認識できる時間を確保します。

研究では、認知症の人は視覚情報の処理が遅れやすいことが知られています。

ユニマチュードはこの特性を踏まえ、

・不安を与えない接近速度

・落ち着きを促す目線の高さ 

を統一し、スタッフ全員で同じ手順を使うことで、利用者が混乱しない“安心のパターン”をつくります。


 

■「話す」──声の高さ・スピード・肯定構文

声掛けは、認知症の人が理解しやすい“短いセンテンス”を基本とします。 

また、声のトーンをなだらかにし、視線と声の方向を一致させることで、情報を一つずつ伝えます。

研究では、

・トーンの安定は興奮レベルの低減

・肯定文は拒否行動の軽減

・一対一の情報提示は混乱の抑制
につながることが示されています。

ユニマチュードでは、こうした音声情報の伝わり方を“技法レベルで標準化”しています。


 

■「触れる」──安心を作る接触技法

触れる順序、肌への接触圧、手のひらの使い方を細かく定義します。

例えば、

・手の甲ではなく“手のひら”で触れる

・触れる前に必ず視覚で予告する

・利用者の不安部位を避ける接触ラインを使う

など、理論に基づく技法が存在します。

特に、手のひらによる接触は「温かさ」を伝えるため、研究では不安軽減・拒否低下・協力度向上に寄与することが報告されています。


 

■「立つ」──立位機能の維持・転倒予防

ユニマチュードは“立つ”ことを重要視します。
立位は脳への血流、筋力維持、廃用症候群の予防に直結するからです。

例えば、

・利用者の体幹を崩さない立ち上がりの誘導

・ペースを共有する歩行支援

・立位を前提にしたケア配置

など、「立ち続ける」ことをケア全体の基本にします。

研究では、ユニマチュード導入施設で
歩行距離が増加し、安定性が改善したケース
が確認されています。

エビデンスで見るユニマチュードの効果──拒否の減少・抑制の低下・ケア時間短縮

ユニマチュードの特徴は、単に理念や精神論ではなく、科学的エビデンスに基づいた効果が数多く示されていることです。
ここでは国内外の代表的な研究データを紹介します。


 

■① 身体抑制率の大幅な減少

ユニマチュードを導入した某急性期病院の認知症病棟では、導入後に、

身体抑制の実施率が大幅に減少した

ことが報告されています。

抑制の減少には、

・利用者の興奮の抑制

・不安行動の軽減

・スタッフの声掛けの一致

が影響していたとされています。

抑制が減ると、家族の安心感、スタッフの心理負担、看護・介護の安全性が向上し、施設の信頼度も高まります。


 

■② 入浴・排泄介助での拒否の減少

複数の特別養護老人ホームで行われた研究では、ユニマチュード導入後に 

入浴拒否・排泄拒否が有意に減少
したことが示されています。

具体的には、

・入浴前のアプローチ方法の統一

・接触の順序の徹底

・声掛けスクリプトの揃え
などの要素によって、利用者が“安心”を記憶しやすくなるためと考えられています。

拒否が減ることで、入浴介助の所要時間が平均 5〜15 分短縮した事例もあります。


 

■③ ケア時間の短縮とトラブル件数の減少

ユニマチュード導入後の施設の経営データでは、
ケア1件あたりの平均時間が低下
トラブル件数が減少
という効果が報告されています。

トラブルが減るということは、

・スタッフ同士の応援が減る

・作業の中断が減る

・日課表が乱れない
ことにつながり、施設全体の運営効率が向上します。


 

■④ スタッフのストレス指標の改善

複数の調査で、ユニマチュード導入後の職員の
・疲労感
・緊張度
・心理的ストレス反応
・離職意向 

の改善が示されています。

拒否が減り、ケアがスムーズになり、成功体験が増えることで、スタッフの自己効力感も高まります。


 

■⑤ 新人・外国人スタッフの定着率向上

ユニマチュードは“手順として標準化できる技法”のため、
新人や外国人スタッフが学びやすいという特徴があります。

難しい抽象表現ではなく、
目線の角度・声の高さ・触れ方・歩く速度
といった「見てわかるスキル」で構成されていることが理由です。

研修後は、スタッフ間のケア観が揃い、
新人が「先輩によってやり方が違う」という混乱が減ります。

介護事業者がユニマチュードを導入するメリット──品質向上・省力化・離職防止の三位一体

ユニマチュード導入は、現場改革だけでなく経営面のメリットも非常に大きいと言えます。


 

■① ケア品質が標準化される

ユニマチュードは「誰がやっても同じ結果が得られる」技法として設計されています。
これにより、

・ケアの属人化が解消

・トラブルの予測がしやすくなる

・研修・評価が客観的になる

といった組織的な利点が生まれます。

 


 

■② 職員の離職防止効果

離職理由の上位にある「認知症ケアの難しさ」が軽減されるため、
定着率の向上に直結します。

管理者が声を揃えて言うのは、
「ユニマチュードを導入すると職場の空気が変わる」ということです。

現場の雰囲気はケアの質にも影響するため、これは非常に大きな意義があります。


 

■③ ケア総量の削減による生産性向上

拒否やトラブルが減ることで、ケア1件あたりの時間が下がり、
シフト運用がスムーズになり、残業が減る
といった効果が報告されています。


 

■④ 家族や地域からの信頼性が向上

ユニマチュードを導入している施設は、家族からの評価が総じて高く、
「安心して任せられる施設」というイメージにつながりやすい傾向があります。


 

■⑤ 公式研修を受けることで“導入施設”として差別化できる

ユニマチュードは公式認定があります。 

導入の窓口となるのは以下です。

・一般社団法人 日本ユマニチュード学会
 https://jhuma.org/

・ユマニチュード研修案内(IGM-Japon)
 https://humanitude.care/

研修導入は、そのまま「質の高い認知症ケアを行う施設」というブランド価値になります。

介護現場はこれからますます複雑化し、認知症ケアは事業者の経営に直結する最重要テーマになっていきます。

ユニマチュードは、科学的な技法でケアの成功率を上げ、職員の離職を防ぎ、施設全体の運営効率を高める“組織戦略”としての価値を持っています。

職員の離職に悩まれている介護施設は、是非ユニマチュードの導入を検討してみてはいかがでしょうか?

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