親介護が“少し楽になる”VRの処方箋:在宅ケアを支える3つの転換 ――親介護の負担をVRで軽くする
番号 87
「ニュースが変えた親介護の未来予想図」
先日、フジテレビの報道で「大塚製薬がフレイル予防のためのVRプログラム『FACEDUO』を提供開始した」というニュースを見ました。
そこでは、加齢に伴う些細な不便さ――ペットボトルのふたが急に開けにくくなる、飲み込みが少し詰まりやすくなる、横断歩道を渡り切るまでの時間が以前より伸びている――といった日常の変化を、仮想空間の中で疑似体験できる仕組みが紹介されていました。
報道によれば、このVRの狙いは「本人が自覚しづらい初期のフレイル兆候を早期に把握し、予防行動につなげること」であるといいます。
フレイルは、健康と要介護の間に位置する“ゆらぎ期”であり、適切な介入をすることで進行を遅らせられる可能性があることも丁寧に説明されていました。
親介護の現場でしばしば起こる「急に悪化したように見えて、実は小さな変化の積み重ねだった」という状況を、家族が前もって察知できるようになるわけです。
私も以前、母が少なくなってきたマヨネーズを2週に分けて新品を1本ずつ買ってきた際、「つい、うっかり・・」と言われスルーしていた数か月後に、認知症の診断されたという、本人の不調が突然起きているわけではないにもかかわらず、家族はその変化をつい見逃してしまいがちであるため、不調のパターンを知ることは非常に有意義であると感じました、
特に在宅での親介護は、食事づくりや通院の付き添いなど日々の実務が多く、感情的な負担も小さくありません。
そのため「いつから歩き方が変わっていたのか」「どうしてこんなに疲れやすくなっていたのか」と、後から振り返って気づく場面が驚くほど多いのです。
そこで、VRのように“安全な仮想空間で事前に疑似体験して理解を深められる技術”が、親介護の現場へ入り込む価値は非常に大きいと感じました。
特に、家族が気づけなかった小さな変化に光を当て、介護の判断を早める力を持っている点は、家庭介護の実務にも心理的負担の軽減にも直結します。
このニュースは、単なる新しい健康機器の紹介ではなく、「テクノロジーが親介護の常識を変える可能性」を強く示すものでした。
そして、日本社会全体が高齢化という大きな波に直面している今だからこそ、家庭で親の状態を理解し、適切なタイミングで支援につなげるための“新しい武器”として、VRが現実味を帯びてきているのだと再認識させられました。

“がんばり介護”が限界を迎える日:親介護にテクノロジーが必須になる理由*
日本では、団塊の世代が75歳以上となることで高齢人口の比率が急激に高まる「2025年問題」が目前に迫っています。
総務省の推計では、2025年には75歳以上の人口が約18%、2040年には65歳以上の人口が全体の35%に到達するとされています。
つまり、多くの家庭が「親介護に向き合う時代」に入っているのです。
しかし、現実の親介護は想像以上に大きな負担を伴います。
厚生労働省の調査では、主な介護者の約6割が強いストレスを抱えていると回答しています。
仕事を続けながら親をケアする“ダブルケア状態”では、時間的にも心理的にも余白がなくなり、介護者自身が心身の健康を崩してしまうケースも珍しくありません。
さらに、経済産業省の試算によれば、毎年10万人規模で発生している「介護離職」は、2030年には家族介護者の4割が仕事と介護の両立を抱え、企業全体では年間9兆円以上の経済損失につながる可能性があるとされています。
つまり、親介護の問題は“個人の家庭の悩み”にとどまらず、日本の社会構造全体を揺るがしていると言えるのです。
こうした状況下で、これまでのように「家族の努力と根性で乗り切る介護」を前提にすることは、限界を迎えつつあります。
親介護を続ける中で、家族同士が摩耗していったり、疲れから判断力が鈍り、危険な場面を見逃したりするケースも増えています。
だからこそ、親介護には“負担を前提とした仕組み”ではなく、“負担を下げるための設計”が求められているのです。
そこで昨今アツく注目されているのがVRです。
VRは単なるエンターテインメントではなく、「理解の精度を上げる」「判断の速度を上げる」「介護者の心身を回復させる」という、親介護の本質的な課題に直接作用する技術です。
つまり、家族が無理をして頑張るのではなく、テクノロジーの助けを借りて“賢く負担を減らす”方向へ発想を転換する時代が来たのです。

VRは親介護の“負担を溶かす三種の神器”:学び・共感・予防のメカニズム**
VRが親介護に効く最大の理由は、「経験を安全に圧縮できる」点にあります。
本来、親介護は“体験しながら覚える”ことが多く、家族は失敗と試行錯誤を繰り返しながらケアのコツを身につけます。
しかし、その過程で本人を不安にさせてしまったり、介護者が精神的に消耗してしまうことがよくあります。
●1)“理解の精度”が上がる
認知症ケア支援VRのように、「本人の視点」を疑似体験できる技術は、これまで文章や動画では伝わりづらかった“行動の背景にある感情”を理解する助けになります。
たとえば、認知症の方が夕方に急に落ち着かなくなる「夕暮れ症候群」や、部屋の模様が歪んで見えて不安になる現象などを体験することで、家族の“なぜそうなるの?”という戸惑いが減り、適切な声かけや環境調整につなげやすくなります。
●2)“判断の速度”が上がる
フレイル対策VRのように、身体のちょっとした不調を疑似体験できるプログラムは、家族の「気づき」を大きく加速します。
親がいつから歩幅が小さくなったのか、階段の登り降りで息が切れたのかといったサインは、毎日の生活の中では見逃しやすく、「気づいたときには転倒が増えていた」ということも多いのです。
VRで「危険サインはどれか」「どんな動作がフレイルの兆候になりやすいか」を体感として理解できれば、受診やリハビリ介入のタイミングを早めることができます。これは、要介護化を防ぐ最も重要なポイントです。
●3)“回復の確保”ができる
親介護は、介護者の心が先に疲弊します。そこで、「いつでもワンちゃん」のようなMRアニマルセラピーが注目されています。
衛生面の制約や人手不足がある現場でも、リアルに触れられるような癒し体験を提供し、場の緊張を下げる効果が期待されています。
介護者にとっても、数分間でも癒やしの時間があることで“再び向き合う力”を取り戻すきっかけになります。親介護は長期戦だからこそ、短時間の回復が積み重なって大きな差を生むのです。

家庭で今日から使える“VR介護実装ガイド”:小さく始めて、大きく効かせる**
VRを取り入れるときに大切なのは、「買って終わり」にしないことことだと考えます。
親介護に役立てるためには、まず“目的をひとつに絞る”ことから始めることが重要です。
具体的には以下の3つのどれかを選ぶと進めやすくなります。
・親の状態を早期に把握したい(フレイル兆候チェック)
・接し方を改善したい(認知症の行動理解)
・介護者自身の回復の時間が欲しい(癒し・リセット)
目的が決まったら、「小さく、定期的に、記録して」回すことがポイントです。
たとえば、週に1回、介護の前に10分だけVRで“今日の想定シーン”を学び、終わったら一行だけ気づきをメモする――これだけでも、親介護の質は大きく変わります。
また、いきなり家庭で導入せずに、自治体のイベントや地域包括支援センターなどでVRを体験してみるのも良い方法です。
本人がどれくらい抵抗なく受け入れられるかを確認してから導入することで、無駄な投資を避けることができます。
VRは、単なる最新ガジェットではなく、親介護の負担を「理解・判断・回復」の3つの側面から確実に軽くしてくれる“現実的な未来の介護ツール”であるといっても過言ではありません。
一度小さな体験からVRを試してみて、負担の変化を確かめてみてはいかがでしょうか?
【企業・サービス紹介(公式ページ)】
●FACEDUO(フレイル予防支援VR)/大塚製薬×ジョリーグッド
https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2025/20251202_1.html
https://www.faceduo.jp/news/20251202/
●FACEDUO(認知症ケア支援VR)
https://www.faceduo.jp/dementia-care/
https://www.faceduo.jp/
●いつでもワンちゃん(MRアニマルセラピー)
https://www.remedy-company.com/news/2025/20251002.html
