一周回って新しい⁈ 親の死語

番号 144

# 介護録

# 大切な家族へ

か、かわい子ちゃんって・・

先日、母の3回忌が終わり姉と兄で、昔の母の話をしていました。

姉と兄で、昔の母の話をしていました。

「ねえ、母さんってさ。変な言葉、いっぱい使ってたよね」

「変な言葉?」

「ほら、若い女の人を見たとき」

兄が少し考えて、

「……かわい子ちゃん?」

「そう、それ!」

「あったなあ(笑)」

「『あの子、かわい子ちゃんねえ』って」

「言ってた言ってた」

「今、そんなこと言う人いる?」

「いないだろ」

「だよね(笑)」

「でも、母さんに『かわい子ちゃん』って言われた店員さん、どう思ってたんだろうな」

「たぶん『ありがとうございます』って言うしかないよね(笑)」

「『はい、かわい子ちゃんです』とは言えないしな」

「言ったら怖いよ(笑)」

さらに、姉が、

「あと、母さん、若い男の人を見ると……」

「まさかの“ハンサム”」

「出た(笑)」

「ずっと私、かっこいい外人の名前かと思ってたし」

「今ならイケメンか?」

「そうそう」

「でも母さん、『イケメン』とかって一回も言わなかったよな」

「言わなかった」

「そういう意味では、最後までハンサムだったな(笑)」

思い出したら止まらない

そこから、昔の母の言葉がどんどん出てきました。

姉が、

「そういえば、アベックとかって言ってたよね」

「言ってた!」

「アベックって・・」

「今なら完全にカップルだな」

「そうそう」

「でも、アベックって何でアベックだったんだろうな」

「知らないよ(笑)」

「今の若い子に『アベック』って言ったらどうなるかな」

「『それ、食べ物ですか?』って言われるんじゃない?」

「確かに、ちょっとうまそうな響きだしな」

「やめろ(笑)」

姉が笑いながら、

「あと、母さん、ナウいも言ってた」

「ナウい!『〇〇なう』の元祖!!」

「『この店、ナウいわねえ』」

「ナウい店って(笑)」

「じゃあ今なら『この店、めっちゃナウい』って言えばいいのか」

「やっぱ、今風にしてもちょいサムいな・・」

「子供に使ったら、今以上に引かれるわ」

二人で笑っていると、

兄が急に真顔になりました。

「そういや、今日って金曜日じゃん?」

「何?」

「“花金”だよな」

「父親の鉄板死語・・」

「オヤジ、『今日は花金だから』ってやたら、ウキウキしてたよな、自営業なのに・・」

「金曜日になると必ず言ってた(笑)」

「やっぱ、金曜日を命日にするぐらいだから、死ぬまで楽しみだったんだな」

「今、会社で言ったら『明日からずっと来なくていい』とか言われそうだよな」

今でも、鮮明に思い出せる親の死語

両親が元気だった頃は、

こんな言葉を聞いても、

「また母さんが言ってる」

「オヤジ、古いなあ」

そんなふうに笑っていただけでした。

父は脳梗塞を患い、20年近く半身不随でした。

父が亡くなってすぐ、母は急速に認知症になりました。

介護をしている頃は、

毎日を回すことで精いっぱいで、毎日できない親を強くあたったり、

文句やケンカの日々で、当時こんな死語を聞いた瞬間、イラついていたことでしょう。

でも今、姉と兄で昔の話をすると、

なぜか出てくるのです。

「母さん、かわい子ちゃんって言ってたよな」

「言ってた(笑)」

「父さんは花金だったな」

「そうそう(笑)」

病気の話でもありません。

介護の大変だった話でもありません。

ただ、

元気だった頃の両親が、いつものように話していた言葉です。

それが今では、家族が集まると笑いながら話せる思い出になっています。

「母さんって、あの頃はあんなに元気だったんだよな」

「父さんも、金曜日になると嬉しそうだったよね」

「そう考えると、なんかいいな」

「うん」

認知症になる前の母。

脳梗塞になる前の父。

病気になる前の、

ただ普通に笑っていた二人。

その二人が残してくれたものは、

写真や思い出の品だけではありません。

「かわい子ちゃん」

「アベック」

「ナウい」

「花金」

そんな、今では誰も使わなくなった言葉まで、

家族の中ではちゃんと生きています。

「死語なのに、うちでは現役だな(笑)」

「ほんとだね(笑)」

親がいなくなったあとも、

その言葉をきっかけに、

家族で笑える。

それって、考えてみると、

けっこう貴重なことなのかもしれません。

「母さん、最後までナウかったな」

「いや、ナウくはないだろ(笑)」

「じゃあ、なんだったんだよ」

「……かわい子ちゃん?」

「それも違う(笑)」

また家族で笑う。

そんな時間があること自体が、

親が残してくれた、

小さな贈り物なのかもしれません。

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