突然役所から来た一通の手紙

番号 148

# 制度

# 介護の準備

分からず放置してしまい、あとでとんでもない事になりがちな“手続き”

突然役所から来た一通の手紙。

離れて暮らす母から、珍しく電話がかかってきました。

「役所から、なんか手紙が来たんだけど……」

声が少し震えています。

「何の手紙?」

そう聞いても、

「よく分からない。税金のことみたい」

という返事でした。

母は一人暮らしです。

まだ身の回りのことは自分でできます。

だから、私もそれほど心配せず、

「じゃあ、今度帰ったときに見てみるよ」

と答えました。

ところが数日後、母からまた電話がありました。

「この前の手紙、まだ見てないんだけど……」

どうやら、封筒を開けただけで、そのままテーブルの上に置いていたようです。

本人に悪気はありません。

ただ、役所から届く書類は言葉が難しく、何をすればいいのか分かりません。

そして、子どもが離れて暮らしていると、親本人が煩わしくて、放置し続けてしまうこともあります。

「そのうち何とかなるだろう」

そう思っているうちに、時間だけが過ぎていきます。

引き出しの中から出てきたもの

ある家族で、こんなことがありました。

80代の母親が一人暮らしをしていて、息子は県外で暮らしていました。

母親は年金を受け取りながら、知り合いに頼まれて、週に数回だけ仕事をしていました。

年間の収入は、それほど多くありません。

母親は、

「これくらいのお金なら、税金なんて関係ないよ」

と思っていました。

ある日、市役所から住民税の申告についての通知が届きました。

でも母親は、

「また難しい手紙が来た」

と思っただけでした。

封筒を開けて、読んで、分からない。

そして、引き出しにしまいました。

数か月後、息子が久しぶりに実家へ帰りました。

「そういえば、お母さん。最近、役所から何か手紙来てない?」

何気なく聞くと、

「来てたけど、もういいのよ」

という返事。

気になって引き出しを開けてみると、役所からの封筒が何通も出てきました。

さらに調べてみると、母親がしていた仕事について、支払った側から給与などの情報が出ていました。

母親自身は申告していませんでしたが、役所側には収入を確認する材料があったのです。

「20万円以下なら大丈夫だと思ってた」

母親はそう言いました。

しかし、所得税の確定申告が不要になるケースでも、住民税の申告まで不要とは限りません。

結局、息子が母親と一緒に役所へ確認することになりました。

その帰り道、母親がぽつりと言いました。

「こんなことなら、最初に電話すればよかったね」

息子は、

「俺ももっと早く聞けばよかったよ」

と答えました。

税金以外にも、忘れられていく手続き

実は、親が放置しやすい役所からの手紙は、税金だけではありません。

たとえば、介護保険の認定更新に関する通知。

「まだ今のサービスが使えているから大丈夫」と、そのままにしてしまうことがあります。

後期高齢者医療や健康保険に関する通知もあります。

保険証や資格確認書、負担割合などについての案内が届いても、内容がよく分からず、引き出しにしまってしまうことがあります。

高額療養費などの払い戻しに関する案内もそうです。

「役所から何か来たけど、難しいからいいや」

と放置してしまえば、本来確認すべき手続きに気づけないことがあります。

さらに、給付金や助成制度の申請。

対象になっていても、自動的に受け取れるとは限らず、申請が必要なものもあります。

親本人は、

「そんなの知らないよ」

で終わってしまう。

でも、子どもが遠くに住んでいれば、そのことにも気づけません。

そして怖いのは、こうした手続きの中には、本人による確認や申請が必要になるものがあることです。

家族が代わりにやればいいと思っていても、すべてを自由に代行できるわけではありません。

親が元気なうちは、一緒に役所へ行けば済むかもしれません。

ところが、認知症が進み、

「これは何の手続きですか?」

「どうしてここに来たのですか?」

と聞かれても、本人がうまく答えられない。

意思を確認することも難しい。

そんな状態になってから初めて家族が動くと、手続きによっては、本人確認や代理手続きについて別途確認が必要になることがあります。

その場合は、まず担当する役所の窓口に相談する。

家族が代理できるのか。

委任状などが必要なのか。

本人の意思確認が難しい場合はどうすればいいのか。

必要に応じて、成年後見制度などの支援について相談することもあります。

だからこそ、親がまだ元気なうちに、

「役所から来た手紙は、分からなくても捨てないでね」

「何か届いたら、写真を送って」

「分からなかったら、一緒に確認しよう」

と決めておく。

これだけでも違います。

介護は、親が倒れてから始まるとは限りません。

「役所から届いた手紙を、どうしたらいいのか分からなくなった」

そんな小さな変化から始まることもあります。

そして、その小さな変化を見逃しているうちに、親が一人では手続きできない状態になっていることもあります。

離れて暮らしているからこそ、親の暮らしの中にある「見えない変化」に気づく。

それも、家族介護の大切な一歩なのだと思います。

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