定年後も、仕事の声がかかるような人の共通点
番号 150
退職して半年、一本の電話が人生を変えた
以前、私を営業マンとして育ててくれた先輩から、こんな話を聞きました。
「会社を辞めて半年くらい経った頃かな。思いがけない電話があったんだよ」
先輩は、長年営業の第一線で働いてきた人です。
仕事に厳しい一方で、お客様への対応は誰よりも丁寧でした。私自身、営業の基本をたくさん教えてもらいました。
その中でも、今でも覚えている言葉があります。
「契約を取ってからが、本当の営業だ」
そんな先輩が定年退職し、会社の名刺も肩書きもなくなった半年後、一本の電話がかかってきました。
「○○さん、お久しぶりです」
電話の相手は、先輩にある仕事を依頼したいと言いました。
先輩は驚いたそうです。
「どうして今、自分なんだろう」
現役時代なら、営業経験も人脈もあります。会社の看板もあります。
でも、退職すれば、それらは少しずつ手元から離れていきます。
そんな自分に、なぜ声がかかったのか。
先輩には、すぐには分かりませんでした。
その理由は、何年も前の仕事の中にありました。

同じお客様を取り合った、若い営業マン
先輩が現役時代に、何度も競い合った営業マンがいました。
同じ会社ではありません。競合会社の営業マンです。
先輩より10歳ほど若く、同じお客様をめぐって何度も商談を競い合ったそうです。
先輩が感心していたのは、彼の仕事の進め方でした。
「明日の午前中までに資料を送ります」
そう言えば、必ず午前中までに届く。
「○日までに確認します」
と言えば、その日までに必ず連絡が来る。
しかも、彼は自分から期限を決めることが多かったそうです。
先に約束をして、自分にプレッシャーをかける。そして、決めたことをきちんとやり遂げる。
先輩は、そんな姿を見て、
「こういう行動が、成果につながるんだろうな」
と思っていたそうです。
一方、先輩自身も、お客様との関係を何より大切にしていました。
大きな契約を取っても、それで終わりにはしません。
導入後に問題がないかを確認し、困りごとがあればすぐに動く。自分の担当範囲を超える問題でも、必要があれば社内の関係部署に働きかける。
そして、しばらく経ってからも、
「その後、問題ありませんか?」
と連絡を入れていました。
営業として数字を追うだけではなく、お客様が安心して仕事を続けられるところまで気にかける。
それが、先輩の仕事のやり方でした。
そんな二人が、ある大きな案件で最後まで競り合いました。
そして、契約を勝ち取ったのは先輩でした。
商談が終わったあと、若い営業マンは笑って言ったそうです。
「今回はやられました。おめでとうございます」
そして、少し間を置いて、
「でも、いつか一緒に働きたいですね」
先輩が、
「競合会社なのに?」
と笑うと、彼はこう答えました。
「だからですよ。○○さんの仕事の進め方、勉強になるんで」
彼のリップサービスとしても相手の若い営業マンからそんなことを言われるとは思いもよらず、嬉しい気持ちを抑えつつ、現場を後にしました。
二人はそれぞれの会社で仕事を続け、やがて年月が流れました。
そして先輩は、長年勤めた会社を退職しました。

年齢を重ねても、必要としてくれる人がいる
退職から半年ほど経った頃、先輩のもとに電話をかけてきたのは、あの若い営業マンでした。
彼はその後、先輩が大きな契約を取った会社へ転職し、実績を積み重ね、事業部長になっていたのです。
彼は、先輩に仕事を依頼したいと考えていました。
そして、自分の考えを会社に上申しました。
「ぜひ、○○さんにお願いしたいんです」
すると、役員たちからも賛同の声が上がりました。
実は、先輩がかつて担当していたお客様の中には、その会社で役員になっていた人たちが何人もいたのです。
彼らは、先輩の仕事ぶりを覚えていました。
契約を取ったあとも、困りごとがあればすぐに動いてくれたこと。担当外の問題でも、何とか解決しようとしてくれたこと。時間が経っても、気にかけて連絡をくれたこと。
そうした積み重ねによって、当時のお客様は先輩のコアファンになっていました。
そして何年も経った今、役員会で先輩の名前が挙がると、
「○○さんなら、ぜひお願いしたい」
「私も賛成です」
と、賛同は満場一致だったそうです。
彼は、
「では、僕から連絡します」
と、自ら電話をかけました。
「コンサルタントのような立場で、参画していただけませんか?」
先輩は、驚きながらも、ようやく理由が分かり始めました。
そして電話の最後に、彼が言ったそうです。
「僕、昔から言ってましたよね」
「いつか一緒に働きたいって」
その瞬間、先輩は、あの商談の日を思い出しました。
自分が契約を勝ち取ったあと、悔しさを見せるどころか、笑顔で祝福してくれた若い営業マン。
そして、何気なく口にした、あの一言。
先輩はすっかり忘れていました。
でも、彼は覚えていたのです。
そして何年も経った今、その言葉を本当に実現させようとしていました。
私はこの話を聞いて、定年後の人生について考えました。
年齢を重ねれば、体力も変わります。若い頃と同じ働き方が難しくなることもあるでしょう。誰にでも次の仕事が用意されているわけではありません。
それでも、長年の経験や、人との間に築いてきた信頼が、思いがけない形で次の仕事につながることがあります。
先輩は、退職してから新しい人脈をつくったわけではありませんでした。
現役時代に、目の前のお客様と向き合い、約束を守り、困ったときには力になってきた。その積み重ねが、何年も経ったあとに一本の電話となって戻ってきたのです。
定年は、仕事人生の終わりとは限りません。
会社の肩書きがなくなっても、年齢を重ねても、
「あなたにお願いしたい」
「もう一度、一緒に仕事がしたい」
そう言ってくれる人がいる。
それは、これまでの人生で培ってきた経験が、誰かの役に立っているということです。
親の介護をしていると、親が仕事を辞めたあとの姿や、自分自身の老後を考えることもあると思います。
何歳まで働くかだけでなく、何歳になっても誰かに必要とされる自分でいられるか。
そのためにできることは、特別な資格を取ることだけではないのかもしれません。
目の前の人との約束を守る。困っている人に手を差し伸べる。自分の仕事が終わったあとも、相手を気にかける。
そんな日々の積み重ねが、いつか自分の未来を支えてくれることもあるのです。
先輩の人生をもう一度動かした、一本の電話。
それは突然訪れた幸運ではありませんでした。
現役時代に誰かのために積み重ねてきたことが、何年もの時間を超えて返ってきたのです。
